【研究成果】<NIMSの研究グループ>天気予報の手法で革新!水電解電極材料の劣化を短時間で予測
DX-GEMに参加しているNIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)の坂牛 健 チームリーダーらの研究グループによる研究成果が、米国化学会誌ACS Energy Lettersのオンライン版に掲載されました。
プレスリリースの図: 水の電気分解の様子。中央の曲がった構造の材料が今回対象とした電極。
【ポイント】
NIMSの研究チームは、水電解装置用の電極触媒の劣化を、短時間の実験で高精度に予測できる手法を開発しました。
【概要】
1. NIMSの研究チームは、水電解装置用の電極触媒の劣化を、短時間の実験で高精度に予測できる手法を開発しました。天気予報でも使われるデータ同化という手法を組み合わせることで、約900時間で急速に劣化する材料を、300時間の実験結果から正確に予測することに成功しました。劣化予測が高速化され、さまざまな触媒材料の劣化の比較が容易となることで、劣化の仕組みの解明が進み、高効率かつ安価で寿命の長い触媒材料の開発が加速することが期待されます。
2. 持続可能な社会構築に向け、二酸化炭素を出さずに水素を製造できる水の電気分解装置の大規模導入が求められています。装置を高効率で長期間運用するには、電極触媒の劣化を抑えることが極めて重要です。しかし電極触媒の耐久性評価には、通常数千時間、場合によっては数万時間という長い時間を要するため、短時間で電極触媒の劣化を正確に予測できる信頼性の高い手法の開発が強く求められていました。
3. 今回、NIMSの研究チームは、電極触媒の劣化予測にデータ同化と呼ばれる手法を組み合わせました。データ同化とは天気予報でも使われる手法で、実験結果にばらつきがあることを想定し、一定数のフィッティング計算を繰り返してパラメータの最適化を行います。研究では、触媒の表面が溶出などで劣化する様子をシンプルな数理モデルで表現し、まずは数時間の劣化試験によく当てはまることを確認しました。次に長時間(約900時間)分のデータをもとに、データ同化を用いて劣化予測を行ったところ、わずか300時間分の実験データを使ってパラメータ推定を行うことで、900時間後の劣化を4%の誤差で予測することに成功しました。
4. 今後はアルゴリズムを改良してより短時間での予測を目指すとともに、触媒材料が劣化するメカニズムの解明を進めます。それにより、材料の高特性化を実現させ、カーボンニュートラル実現のための水電解装置の普及につなげます。
5. 本研究は、文部科学省におけるデータ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト事業(JPMXP1121467561)の一環として、エネルギー・環境材料研究センター電気化学エネルギー変換チームのMiao Wang NIMSポスドク研究員と坂牛 健 チームリーダー、および若手国際研究センター(ICYS)の石井 秋光ICYS研究員によって行われました。
6. 本研究成果は、2024年12月9日に米国化学会誌ACS Energy Letters(DOI: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsenergylett.4c02868)のオンライン版に掲載されました。
※NIMS HPより抜粋(https://www.nims.go.jp/press/2024/12/202412120.html)
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