【研究成果】<東京理科大学 駒場慎一教授のグループ> 希薄電極法により、ナトリウムイオン電池の電極反応速度を定量化 ~ナトリウムはリチウムより速く、低温でも高性能を実現~

DX-GEMに参加している東京理科大学 駒場 慎一教授らの共同研究グループは、電池の負極材料であるハードカーボンを対象に、希薄電極法(※1)を用いてリチウムおよびナトリウムの挿入反応の速度論を比較検討し、ナトリウムがリチウムよりも優れた拡散性を示すことを明らかにしました。これにより、ハードカーボンを負極として用いた場合、ナトリウムイオン電池がリチウムイオン電池よりも高速で充電できることが定量的に示されました。

本研究成果は、2025年12月15日に国際学術誌「Chemical Science」にオンライン掲載されました。また、本論文はChemical Science誌において特に注目される「ChemSci Pick of the Week」に選出されました。

【研究の要旨とポイント】
希薄化したハードカーボン電極の電気化学測定により、ナトリウムの挿入反応速度はリチウムより速く、黒鉛電極に対するリチウムの挿入反応と同等の性能を持つことを実証しました。
・ナトリウム挿入の活性化エネルギー(約55 kJ/mol)がリチウム挿入(約65 kJ/mol)より低く、その結果、低温環境でも性能が保たれ、急速充電に適していることを解明しました。
・本研究の成果は、大規模エネルギー貯蔵システムや電気自動車向けナトリウムイオン電池の急速充電技術の開発に寄与し、ナトリウムイオン電池の普及や寒冷地での実用化を加速させることが期待されます。

【研究の概要】
DX-GEMに参加している東京理科大学 駒場 慎一教授らの共同研究グループは、電池の負極材料であるハードカーボンを対象に、希薄電極法(※1)を用いてリチウムおよびナトリウムの挿入反応の速度論を比較検討し、ナトリウムがリチウムよりも優れた拡散性を示すことを明らかにしました。これにより、ハードカーボンを負極として用いた場合、ナトリウムイオン電池がリチウムイオン電池よりも高速で充電できることが定量的に示されました。

リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池では、リチウムイオンやナトリウムイオンが電荷の担い手として移動することにより充放電を行うことができます。これまでの研究により、ハードカーボン負極に対するこれらのイオンの挿入反応速度は、①炭素六角網面層における吸着と挿入、②ナノ細孔への充填という2つの主要な反応に依存していることが知られています。これらの反応速度は電池の高出力密度と急速充電を実現する鍵となりますが、従来の複合電極では2つの反応が重なり合うことや電極内でのイオンの移動が複雑であるため、どちらが速度を制限しているのか区別することが困難でした。

本研究では、希薄電極法という新たなアプローチを採用して電気化学測定を行うことで、ハードカーボン負極に対するナトリウム挿入とリチウム挿入の反応速度を正確に評価しました。その結果、5 vol.%に希釈したハードカーボン電極を用いた急速充電試験において、ハードカーボンへのナトリウム挿入速度はリチウムよりも速いことが確認されました。電極への挿入速度の指標となる見かけの拡散係数(Dapp)は、ナトリウムでは10-10 ~ 10-11 cm2/s、リチウムでは10-10 ~ 10-12 cm2/sであり、ナトリウムの方がハードカーボン中を速く移動できることが示唆されました。さらに、ハードカーボンへのナトリウム挿入速度は、現行のリチウムイオン電池で負極材料として用いられる黒鉛へのリチウムの挿入速度と同等であることが示されました。

また、温度依存性の評価から得られた活性化エネルギーは、リチウム挿入(約65 kJ/mol)よりもナトリウム挿入(約55 kJ/mol)の方が低くなっており、ナトリウムイオン電池の方が温度変化の影響を受けにくいため低温環境でも性能を維持しやすいことが示されました。さらに、希薄ハードカーボン電極では、電解液とハードカーボン界面での電荷移動反応が充電速度を制限する主な要因となり得ますが、低電位領域ではハードカーボン細孔内における擬金属クラスターの核生成が充電速度に大きく影響することが明らかとなりました。

本研究成果は、2025年12月15日に国際学術誌「Chemical Science」にオンライン掲載されました。また、本論文はChemical Science誌において特に注目される「ChemSci Pick of the Week」に選出されました。

用語
*1 希薄電極法
大阪公立大学の有吉 欽吾 准教授らの研究グループによって開発された手法。本研究では、電極内の活物質(ハードカーボン)の一部を電気化学的に不活性なAl2O3(酸化アルミニウム)に置き換えている。

※本研究は、文部科学省におけるデータ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト事業(DxMT)の再生可能エネルギー最大導入に向けた電気化学材料研究拠点(DX-GEM, JPMXP1122712807)などの支援を受けて実施しました。

※東京理科大学HPより抜粋(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20251217_7418.html