【研究成果】<東京大学の山田淳夫教授のグループ>電気化学における100年来の未解決問題に答え ―固体と液体を繋ぐ新理論の構築―

DX-GEMに参加している東京大学の山田淳夫教授のグループによる研究成果が、2024年2月19日付の英国の学術雑誌Nature Communications電子版に掲載されました。

【発表のポイント】
・固体科学の概念を液体材料(電解液)に展開し、電極-イオン間の電子授受のしやすさ(電極電位)を記述する新たな電気化学理論を提唱。
・100年来の未解決問題であった、濃厚電解液における電極電位の定量評価を、数値シミュレーションにより初めて実現。
・蓄電池の正極・負極の電極電位と電解液の関係が数値的に可視化されたことで、電池材料の全体最適化による二次電池高性能化に貢献

【発表概要】
東京大学大学院工学系研究科の山田淳夫 教授、竹中規雄 特任講師、コソンジェ(Ko Seongjae) 助教、北田敦 准教授らのグループは、固体科学の概念を液体である電解液(注1)に展開し、電極-イオン間の電子授受のしやすさ(電極電位、注2)を記述する電気化学理論モデル(液相マーデルングポテンシャル)を新たに提唱した(図1)。本研究では、数値シミュレーション(分子動力学法、注3)を用い、電解液中でリチウムイオンの感じる静電的な居心地の良さ(液相マーデルングポテンシャル)を直接計算することで、従来の古典的理論では扱うことのできなかった、濃厚電解液における電極電位の定量評価に初めて成功し、100年来の未解決問題を解決した。また、電解液に依存する電極電位シフトの物理的起源が、電解液中のリチウムイオンの液相マーデルングポテンシャルのシフトに起因することを明らかにした。これにより、本質的知見に基づく電池材料の全体最適化と二次電池の革新的性能発現に貢献すると期待される。

本研究成果は、2024年2月19日付の英国の学術雑誌Nature Communications電子版に掲載された。

図1:固体と液体を繋ぐ電気化学の新理論を提案

液体中のリチウムイオンが感じる静電的な居心地の良さ(液相マーデルングポテンシャル)を理論的に計算し、100年来の未解決問題であった、濃厚電解液における電極電位の定量評価が可能となった。

<用語解説>

(注1)電解液

蓄電池の正極と負極の間において特定のイオンの移動を媒介する液体材料。一般的な商用リチウムイオン電池の電解液は、溶媒分子、リチウムイオン、陰イオンから構成される液体であり、有機溶媒にリチウム塩を溶解した溶液が用いられる。

(注2)電極電位

電極活物質がイオンと反応する際の電子授受のしやすさを規定する指標値。例えば、リチウムイオン電池では負極と正極の間をリチウムイオンが行き来することで充放電が行われるが、電極電位が高いほど負極ではリチウムイオンが還元されやすくなり、逆に正極では酸化されづらくなる。リチウムイオン電池の安定作動を実現するためには、負極と正極の電極電位を電解液が分解しない電位領域(電位窓)に収めて(あるいは近づけて)、電解液の副反応を熱力学的に抑えることが重要である。

(注3)分子動力学法(MD法)

原子間に働く相互作用ポテンシャルのもとでニュートンの運動方程式を解き、原子の動的な振る舞いから材料の構造や物性を求める数値シミュレーション。本研究のような電解液中でリチウムイオンの感じる静電的な居心地の良さ(液相マーデルングポテンシャル)を直接計算することは、100年前には不可能であった。

※東京大学大学院工学系研究科HPより抜粋(https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2024-02-20-001
※Nature Communications:https://www.nature.com/articles/s41467-023-44582-4