【研究成果】<東京理科大学 駒場慎一教授のグループ>機械学習でナトリウムイオン電池材料の性能予測から実証まで ~次世代電池開発の高速化、低コスト化の実現に大きく貢献~
DX-GEMに参加している東京理科大学駒場慎一教授、名古屋工業大学中山将伸教授らのグループによる研究成果が、国際学術誌「Journal of Materials Chemistry A」にオープンアクセスで掲載されました。
【研究の要旨とポイント】
・これまでの実験データを用いて機械学習(ML)モデルをトレーニングし、ナトリウムイオン電池(SIB)用正極材料の組成と電気化学特性を予測しました。
・MLの結果に基づき、Na[Mn0.36Ni0.44Ti0.15Fe0.05]O2 (MNTF)を合成し、549 Wh/kgという高いエネルギー密度を示すことを実証しました。
・本研究で確立した手法により、SIBの材料開発が効率化され、コスト削減につながるとともに、今後の電池開発の進展に寄与することが期待されます。
【概要】
東京理科大学 理学部第一部 応用化学科の駒場 慎一教授、東京理科大学大学院 理学研究科 化学専攻の関根 紗綾氏(2024年度 修士課程2年)、東京理科大学 研究推進機構 総合研究院の保坂 知宙助教(現 チャルマース工科大学 日本学術振興会 海外特別研究員)、名古屋工業大学 工学部 生命・応用化学科 環境セラミックス分野の中山 将伸教授らの研究グループは、これまでに蓄積した実験データを用いて機械学習(ML)モデルをトレーニングし、高エネルギー密度を有するナトリウムイオン電池(SIB)用の遷移金属層状酸化物の材料探索と電気化学特性の予測を行いました。また、MLで得られた結果に基づき、有望な組成であるNa[Mn0.36Ni0.44Ti0.15Fe0.05]O2 (MNTF)を合成し、実際の初期放電容量が169 mAh/g、平均放電電圧が3.22 V、エネルギー密度が549 Wh/kgという優れた性能を示すことを実証しました。これらの値がMLによる予測値とほぼ一致していることも確認され、MLモデルの精度が裏付けられました。
再生可能エネルギーの普及に伴い、リチウムイオン電池(LIB)に代わる次世代の蓄電技術として、豊富な資源を活用できるSIBが注目されています。SIBの正極材料であるナトリウム含有遷移金属層状酸化物は、結晶構造や組成によって性能が大きく変わり、特にO3型と呼ばれる構造が優れた性能を示すことが知られています。現在、SIBの性能向上に向けた組成最適化や特性評価に関する研究が広く進められています。本研究グループは、長年にわたり蓄積されてきたSIB用層状酸化物100サンプルのデータベースを構築し、これを基にSIB用正極材料の組成、初期放電容量、平均放電電圧、容量維持率を予測するMLモデルを開発しました。
本研究では、材料中の遷移金属が電気化学特性に与える影響を解明し、MLによって提案された有望な組成であるNa[Mn0.36Ni0.44Ti0.15Fe0.05]O2(MNTF)を実際に合成しました。MNTF電極の定電流充放電試験(2.0 ~ 4.2 V)により、初期放電容量169 mAh/g、平均放電電圧3.22 V、エネルギー密度549 Wh/kgという結果が得られ、MLの予測値とほぼ一致することが実証されました。一方で、20サイクル後の容量維持率は83.0%と、予測値の92.3%と比較して低い結果が得られました。この容量維持率の低下は、充放電反応中に生じるMNTFの結晶構造の変化や粒子の亀裂が原因であると考えられました。そこで、測定の電圧範囲を調整すると、これらの問題を改善できることがわかりました。今後は、これらの現象を考慮したMLモデルを確立することで、容量維持率の予測精度のさらなる向上が期待されます。本研究で確立した手法は、幅広い候補材料から有望な組成を効率的に特定できるため、SIB電池開発の迅速化と低コスト化に大きく貢献する成果といえます。
※東京理科大学HPより抜粋(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20241106_7384.html)