【研究成果】<東京理科大学 駒場慎一教授のグループ> カルシウム置換によりナトリウムイオン電池の大気安定性が向上 ~実用化に向けた高性能正極材料開発の新戦略~

DX-GEMに参加している東京理科大学 駒場 慎一教授らの共同研究グループは、ナトリウムイオン電池の正極材料として期待されるP2型Na2/3[Fe1/2Mn1/2]O2 (NFM)において、ナトリウムイオンを1 wt%のカルシウムイオンで置換することで、優れた電池特性を維持しながら耐水性を向上することに成功しました。また、カルシウム置換によって耐水性が向上するメカニズムの詳細を解明しました。

本研究成果は、2025年8月29日に国際学術誌「Journal of Material Chemistry A」にオンライン掲載されました。

Calcium-doped NFM to resolve stability issues in sodium-ion batteries

【研究の要旨とポイント】

  • P2型Na2/3[Fe1/2Mn1/2]O2 (NFM)は、ナトリウムイオン電池の正極材料として高い性能を有していますが、大気中ではその表面不安定性により劣化してしまうことが実用化の課題となっていました。
  • ナトリウムイオンを1 wt%のカルシウムイオンで置換することにより、高い放電容量190 mAh/gを維持しながら優れたレート特性を示し、2日間大気中に曝露してもほとんど劣化しないことを明らかにしました。
  • 大気曝露後にカルシウムイオンが粒子表面に自発的に移動し、カルシウム濃度の高い保護層を形成することで、ナトリウムイオンと水素イオンの交換反応などを抑制して劣化を防ぐという機構の詳細を解明しました。
  • 本研究成果は、層状酸化物の大気安定性の課題を解決し、ナトリウムイオン電池の実用化を促進することが期待されます。

【研究の概要】

DX-GEMに参加している東京理科大学 駒場 慎一教授らの共同研究グループは、ナトリウムイオン電池の正極材料として期待されるP2型Na2/3[Fe1/2Mn1/2]O2 (NFM)において、ナトリウムイオンを1 wt%のカルシウムイオンで置換することで、優れた電池特性を維持しながら耐水性を向上することに成功しました。また、カルシウム置換によって耐水性が向上するメカニズムの詳細を解明しました。

ナトリウム含有遷移金属層状酸化物は、ナトリウムイオン電池の正極材料として優れた性能を持つことが知られています。特にP2型の層状構造に分類されるNFMはリチウムイオン電池に匹敵する性能を示すため、実用化を見据えた研究が広く行われています。しかし、大気中での安定性が低く、徐々に性能劣化することが実用化への大きな障壁となっていました。そこで本研究では、NFMのような高容量材料において、ナトリウムイオンの一部をカルシウムイオンで置換することで高い放電容量を維持しながら耐水性を向上させ、大気安定性の課題を克服できるか否かを検討しました。

本研究の結果、NFMを1 wt%のカルシウムイオンで置換したNCFMでは、水酸化物、炭酸塩の生成や結晶構造への影響がほとんど見られませんでした。放電容量約190 mAh/g、容量維持率72%を達成し、50サイクルまで安定動作することが明らかになりました。レート特性は1Cで110 mAh/g、2Cで67 mAh/gと、NFMよりも優れた値を示しました。さらに、湿度65%で2日間大気曝露しても、放電容量の損失は見られず、大気安定性が大幅に向上しました。表面分析により、大気曝露でカルシウムイオンが粒子表面に移動してカルシウム濃度の高い層を形成し、これが大気中での分解反応を抑制する鍵となっていることを突き止めました。本研究は、ナトリウムイオンの一部をカルシウムイオンで置換することがNFMの安定性と性能向上に有望な戦略であることを実証しています。

本研究成果は、2025年8月29日に国際学術誌「Journal of Material Chemistry A」にオンライン掲載されました。

※本研究は、文部科学省におけるデータ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト事業(DxMT)の再生可能エネルギー最大導入に向けた電気化学材料研究拠点(DX-GEM, JPMXP1122712807)などの支援を受けて実施しました。

※東京理科大学HPより抜粋(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20251008_1074.html